先代理事長 田頭政佐の声掛けから始まった島しょ診療。
当時、オリブ山病院に慶良間諸島から通院している方がいました。離島から那覇市首里までの通院は、物理的にも経済的にも大変です。その状況を知った先代理事長より、「病院側から患者さんの住む離島へ出向き、診察してはどうか」という提案がありました。
以後、関係機関と検討を重ね2010年5月、精神科巡回診療をスタートし今日に至ります。
その働きをより発展・継続させていくため、2019年度に「島しょ(島嶼)診療部」が設置されました。
各島々に住む島民からのご支援や、島内で働く診療所、役場、保健センターなど、関係者の方々からの力添えと励みに後押しされて、今日まで継続して巡回診療を行うことができております。この場を借りて感謝申し上げます。
南部圏域内の周辺離島だけでも、慶良間諸島・南北大東島・粟国島・久米島など多数の島があります。離島ゆえの人・豊かな自然の魅力があります。島に愛着や親しみを感じ住み続けたいと願う人々もいます。
各島々には診療所があり、島民の健康を支えていますが、診療所で対応が困難な場合、島を出て別の医療機関を受診しなければなりません。精神科への受診も同様です。島外へ受診する際は、物理的にも経済的にも負担が大きく、様々な事情で専門的医療を受けられないケースも見受けらるのが現状です。
離島において医療支援が及びにくくても、人生の拠点である地域や在宅で安心して生活できるよう医療提供することを目的として、オリブ山病院は精神科巡回診療を実施・継続しています。
現在、巡回診療を契約している座間味島・南北大東島・粟国島の4島へ、それぞれの島に1名の担当医師が、病院での医療業務と掛け持ちで診療に携わっております。その島しょ診療部では、月1回、担当医師と看護師や精神保健福祉士などのスタッフが2名ペアを基本とし、巡回診療を実施しております。
巡回診療だけではなく、当法人の母体であるオリブ山病院での外来・検査・入院治療へ繋ぐ橋渡しも行っております。必要時には、本島への渡航同行も実施しております。そして必要な治療を終えたあとは、以前の生活と同じように過ごすことができるように医療支援を行っていきます。
時に、継続して自宅で生活することを支援するサポートが難しく、本島にある入所施設へ住まいを移されることも少なくありません。本当は住み慣れた環境で余生を送りたいと願っていたはずです。そんな中、島内の支援者の協力を得ながら巡回診療を活用して頂き、退院後も元のようにご家族と一緒に生活を再開することができた事例もあります。
ご家族からは、介護の負担が減ったと感想も頂くことがあり、巡回診療のやりがいを感じているところです。
島に住む方が抱える様々な疾患に対応するため、島内の診療所、保健師からの情報収集と連携を図りながら、柔軟な対応が求められています。現在、医師以外での巡回診療の同行する職種は、看護師か精神保健福祉士ですが、今後は求められるニーズに合わせて、心理士や作業療法士といった専門職の充足も視野に入れております。
2020年3月、新型コロナウイルス感染防止により、私たちの巡回診療も、外出自粛要請のあおりを受けることになりました。ウイルス感染の恐れがあるため、時に訪問巡回診療の中止は仕方の無い状況ではありました。
しかしながら、島外へ行けない不満や、外出することで生じる感染リスクなどが相まって、巡回診療を受けている方々は、ストレスを抱えることになります。
自粛期間中も、島民の方からの電話相談や入院相談などの問い合わせを多く受けました。このような状況下で、ますます精神的な負担が蓄積されることがとても心配でした。
そんな中、新しい試みとして、2020年4月より、インターネットを利用し離島に住む方への診療も実施しております。今回の渡航自粛がきっかけになったのですが、それ以外にも沖縄本島・離島は、台風が毎年到来する環境下にあります。台風による渡航制限も当然予想されます。どんな状況下にあっても、わたしたちは島との医療的な繋がりを絶やさないようにするため、今回の試行したオンライン診療は、島民の方々に医療をとおして貢献できるよう活用していきたいと考えております。
これからも私たち島しょ診療部は、離島への巡回診療を通して、村長をはじめ、島内の医療スタッフの方々とともに、島内に住む方々の精神科医療の充実へ寄与していく所存でございます。どうぞよろしくお願い致します。